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AI従業員時代のグローバルリーダー育成を「スキルファースト」で科学する

AI従業員時代のグローバルリーダー育成を「スキルファースト」で科学する

——人とAIの役割分担、そしてビジネスプロフェッショナルの英語力育成を再設計する

著者】Aoba-BBT常務執行役員/BBT Online Global Inc. 社長 宇野 令一郎

はじめに——「人をどう育てるか」の前に、「人とAIに何を任せるか」

2026年、企業の人材戦略に新しい主役が加わりました。AI従業員です。

これは、社員が生成AIを”便利な道具”として使う、という話ではありません。リサーチをするAI、資料をつくるAI、顧客対応をするAI、分析をするAI、システムを開発するAI——複数のAIエージェントが、人間と役割分担しながら仕事を進める組織が、現実になり始めています。

米国のバイオテクノロジー企業モデルナは、人事とITを「People and Digital Technology」という一つの機能に統合しました。責任者はCHRO出身のTracey Franklin氏。AIをIT部門だけの課題として扱わず、「人間とAIのどちらに、どの仕事を任せるのか」を、人材・組織・テクノロジー横断の設計課題として位置づけたのです。

日本でも、LINEヤフー会長を退任した川邊健太郎氏が、経理・法務・プロダクト開発・マーケティングリサーチなどを担うAIエージェントを”部下”とする「1人+AI起業」に挑戦されるとのこと。

大企業と一人起業では規模こそ違えど、問いは同じです。

  • AIに任せる仕事は何か
  • 人間に残す判断は何か
  • 人間はAIを率いるために何を身につけるべきか
  • その能力を、企業はどう育てるのか

そしてAIの登場でとりわけ大きな影響を受けるのが、グローバルリーダーの育成です。

海外事業を率いるリーダーには、戦略、交渉、本社への財務・経営報告、マインドの異なる仲間や部下との異文化コミュニケーション、”根回し”の通用しないグローバルマネジメント、AI活用……国内以上に多くの能力が求められます。しかもそれを、英語で行う必要がある。

「そんなスーパーマン、どこにいるんですか?」と言いたくなりますよね。

でも大丈夫。これらの能力を「これはAI」「これは人間」に整理すれば、従来のグローバル人材開発とは違う、はるかに効率的なルートが見えてきます。

必要なのは、経営戦略から役割を定義し、AIでできるものはAIに振り、残った役割をタスクとスキルに分解して育てる——スキルファースト型のグローバルリーダー開発です。

1. なぜ今「スキルファースト」なのか

「スキルファースト」とは、学歴・職歴・所属企業・役職名で人を判断せず、「実際に何ができるのか」を起点に採用・配置・育成・評価を設計する考え方です。

ただし、必要なスキルをただ列挙するだけでは、経営戦略と人材開発はつながりません。

出発点は、自社のミッション・ビジョンと中期経営計画。そこから、グローバルリーダーに期待するミッションを明確にします。

例えば海外事業を成長させるリーダーなら、主要タスクはこう整理できます。

  • 海外市場・顧客・競合を分析し、成長機会を特定する
  • 市場参入戦略や事業計画を策定する
  • 投資・撤退・資源配分を意思決定する
  • 本社や現地経営陣へ戦略を説明し、承認を得る
  • 顧客・取引先・現地幹部と交渉し、合意を形成する
  • 戦略を現地組織へ伝え、実行をリードする

そこでAI共創時代には、いきなりスキルを決めずに、まず各タスクを三つに仕分けます。

2. タスクを「AI」「共同」「人間」に仕分ける

① AIに任せるタスク

大量の情報を集め、整理し、要約する。初期案をつくる。人間が長年時間を溶かしてきた領域です。

  • 海外市場に関する公開情報の収集
  • 競合企業・製品の比較
  • 顧客レビューやニュースの整理
  • 市場参入シナリオの初期案作成
  • プレゼン資料や英文の下書き
  • 会議の想定質問・反論の洗い出し

ここをAIに任せることで、リーダーは判断と対話に時間を振り向けられます。

② 人とAIが共同で行うタスク

AIが分析や選択肢を提示し、人間が前提を確認し、意味づけし、判断する領域です。

  • AIが抽出した市場機会の妥当性を検証する
  • 複数の戦略オプションを比較する
  • 投資案のリスクとリターンを評価する
  • プレゼンの論理とストーリーを磨く
  • 交渉相手の反応を想定し、対応策を準備する
  • AI翻訳を活用しながら海外関係者と情報を共有する

ここではAIに”正解”を求めるのではなく、仮説生成・壁打ち・検証・シミュレーションの相手として使う力が問われます。

③ 最終的に人間が担うタスク

価値判断、信頼関係、責任を伴う仕事です。

  • どの市場に投資し、何を諦めるかを会議で決める
  • 現地経営陣や社員へ判断の理由を説明する
  • 厳しい反論や感情的な対立に対応する
  • 交渉によって合意を形成する
  • 意思決定の結果に責任を持つ

AIが分析や資料作成を担えるようになるほど、リーダーには判断・説明・交渉・信頼形成・責任という、人間にしか担えない能力がより強く求められる

——これが逆説的な結論です。

3. スキルとコンピテンシーを定義する

役割分担ができたら、タスク遂行に必要なスキルを整理します。例えば:

  • AIを使って海外市場を分析できる
  • AIが提示した情報の根拠と前提を検証できる
  • 複数の戦略案を比較し、優先順位を決められる
  • 投資判断の理由とリスクを説明できる

ただし、スキルを個別に持っていても成果には直結しません。英語でプレゼンできても、相手の反応を踏まえて説明を変えられなければ、合意は形成できない。

そこで必要になるのがコンピテンシーです。

スキルが「何ができるか」を表すのに対し、コンピテンシーは「人間とAIの能力を状況に応じて組み合わせ、成果を出すためにどう行動するか」を表します。

例えば「戦略的意思決定」というコンピテンシーは、こう一部を定義できます。

  • AIを使って複数の情報源と選択肢を集める
  • 判断理由・リスク・代替案を関係者へ説明する
  • 結果に責任を持ち、必要に応じて判断を修正する

まとめると、AI時代のグローバル人材開発は次のプロセスで設計します。

ミッション・ビジョン/中期経営計画 
↓ グローバルリーダーに期待するミッション
↓ 主要タスク 
↓ AI/共同/人間の仕分け 
↓ 必要なスキルとAI協働スキル 
↓ コンピテンシーと行動指標 
↓ アセスメントで現在地を把握 
↓ 個別の育成・配置・実践機会

この順番で考えれば、「AI研修」「英語研修」「リーダーシップ研修」を別々に提供するのではなく、実際の海外事業ミッションに必要な能力として統合設計できるようになります。

4. 「ビジネスプロフェッショナルの英語力育成」も、ミッションから逆算する

必要なスキルとコンピテンシーが整理できたら、既存の人事評価や本人・上司との対話を通じて、現在地と育成課題を確認します。大切なのは、「戦略を知っている」「英語の点数が高い」といった表面評価ではなく、「実際の海外事業で何ができるか」を見ること。

  • AIが集めた情報を検証し、戦略を判断できるか
  • 判断の根拠を本社や現地経営陣に説明できるか
  • 反対意見を受け止め、交渉や合意形成につなげられるか
  • 戦略を現地組織へ伝え、実行をリードできるか

課題に応じて、研修、上司との対話、コーチング、海外プロジェクト、実務課題への適用を組み合わせます。

AIは育成の密度も高めます。情報収集、資料の初稿、想定質問、基本的な反復はAIに任せる。人間の英語講師や英語コーチと過ごす時間は、判断・即興・交渉・フィードバックといった、対話でなければ鍛えにくい領域に集中させる

——これがAI時代の育成設計です。

ビジネスプロフェッショナルの英語力育成も同じ発想で組み直せます。一般的なビジネス英会話や、本人の仕事と無関係のテーマを漫然と学ぶ時代は終わりました。実際のミッションに必要な場面に絞り込みます。

  • 財務責任者なら、海外CFOとの投資議論
  • 経営企画担当なら、海外戦略の提案
  • 拠点長なら、現地社員への方針説明

AIで準備できる部分(想定Q&A、スクリプトの下書き、語彙・表現の反復)はAIに任せ、1対1のセッションでは質問対応、反論、交渉、合意形成を実践する。すると英語学習は「勉強」から「本番のリハーサル」に変わります。

5. 事例から学ぶ本質——「別々に」ではなく「合同で」放り込む

多くのグローバル企業がハマる罠があります。「英語ができる優秀層だけを海外研修に行かせる」「国内と海外で別々に研修を行う」というセグメント化です。

しかし、成功しているグローバル企業のモダンなアプローチは違います。日本人幹部候補と外国人幹部候補の合同研修を、初期段階から実施しているのです。

「英語力がまだだから早い」と分けるのではなく、最初から同じ場に放り込む。自社のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の浸透と、リアルな多様性の中でのマネジメントを、同時並行で学ばせる。

この”荒療治”とも言えるタフな経験こそが、世界で通用する強い組織基盤をつくります。

結び——人事責任者の皆さまへ

スキルファーストへの転換や、コンピテンシーの再定義は、一見すると手間もコストもかかるように見えます。しかし、AIをインフラとして整え、全社一律ではない「個別最適化されたスキル開発」を行うことは、結果として最も費用対効果の高い「強い組織」への近道です。

Aoba-BBTでは、次の支援を提供しています。

  • 経営戦略に即したグローバルリーダーのミッション・タスク整理
  • 各タスクにおける人とAIの役割分担設計
  • 必要なスキル・コンピテンシー・育成テーマの設計
  • AI協創型戦略立案/AI協創型問題解決/リーダーシップなどの講座
  • 専門分野・実務テーマ別にカスタマイズされた1対1英語シミュレーショントレーニング

グローバル人材育成は、既存の研修メニュー選びから始める必要はありません。まず、自社の中期経営計画を実現するために、グローバルリーダーが担うべきミッションと、人間に残る仕事を明確にする。そのうえで、必要な能力と育成方法を設計する——この順番です。

まずは、自社のグローバルリーダー開発モデルの「再点検」から始めてみませんか?

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■ 著者プロフィール

宇野 令一郎(うの れいいちろう)
 Aoba-BBT常務執行役員 法人研修事業本部 副本部長 兼 Aoba-BBT Learning Hub 部門長 / BBT Online Global Inc. 社長。熊本大学大学院非常勤講師、ビジネス・ブレークスルー大学専任講師。

慶應義塾大学経済学部卒業、McGill大学(カナダ)MBA、熊本大学大学院教授システム学修士号取得。東京銀行(現三菱UFJ銀行)にて海外進出支援業務、バイアウトファイナンス業務、プロジェクトファイナンス業務、三菱UFJキャピタル業務に従事。2009年にビジネス・ブレークスルー(現Aoba-BBT)入社。BBT大学学部事務局長として大学事業立ち上げ、アオバジャパン・インターナショナルスクール理事、ムサシインターナショナルスクール理事長等を歴任し、長年にわたりグローバル人材育成・新規事業の舵取りを担う。